盲導犬訓練士は実際にどのような訓練を盲導犬に行っているのでしょうか。まず、ほえない、かみつかない、じゃれない、決められたところ以外で排便をしないなどの基本的なしつけを行います。その上で、盲導犬として適正があるかのテストを行い、訓練を行い、合格した犬が盲人のもとで暮らすことになります。
犬が、座れ、伏せ、待て、進め、右へ、左へ、などの指示を守れるように訓練します。これらは人と暮らす犬にとっては基本中の基本となります。粘り強く優しく厳しい訓練のはじまりといえます。命令口調でなくてもすぐに覚える反応抜群の犬もいれば、数週間かかるおっとりタイプもいます。犬の性格をつかむことができれば、訓練もスムースに進みます。
歩行中危険な障害物をよけます。電柱、スタンド式の看板、木の枝、傘などの空間の障害物、水たまり、歩道上の自転車やバケツ、植木鉢など、犬は自分が通れるだけでなく、主人が通れるかどうかを判断して誘導する訓練を行います。犬が自分だけ通り抜けようとしたら、盲導犬訓練士はすぐに止まってその障害物を犬に見せ、わざと障害物につまずいて見せたりしながら注意を行います。もう一度通り直して、うまくできたら喜びをいっぱいに表してほめます。
路上の段差、歩道橋、階段、エスカレーターなどを含む乗り物の乗降位置では、前足をかけ、一旦止まるように教えます。止まらなかったらもう一度、というように繰り返し練習します。実際に視覚障害者と歩くとき、「止まる」は信頼のハーネス(U型のハンドルのついた胴輪。誘導具)を通じて伝わる合図なのです。
必ず一旦停止し、指示を待ちます。命に関わる「一旦停止」は絶対守らなければいけません。盲導犬訓練士が細心の注意を払うことの一つといえます。できたときには大げさなくらい犬をほめてやります。盲導犬訓練士が心の底から喜ぶのもこんな時です。遂うっかりと道に一歩を踏み出した犬にはすぐに注意します。そして、やり直しをします。うまくできたときは犬にとってもステップアップした嬉しい瞬間に違いないでしょう。 犬は信号の色を識別できないので、主人である盲人が人や車の流れや周囲の状況を聞いて判断することがあります。側にいる人の「信号が青になりましたよ」の声はありがたいといいます。
ドアノブ、券売機、信号の押しボタン、ポストなどの位置を押します。それぞれの場所に行き、「ドア」「切符」「ボタン」「ポスト」の言葉を繰り返して教えます。犬は鼻先をあげたり、主人の手にそっと口を当てたりしてその場所を示します。
一番難しいと思われるのが不服従です。服従では主人の指示に従うように訓練しますが、音が聞こえなくても車が直前に迫っているようなとき、それに気づかない主人が「ゴー」と指示しても動いてはいけないのが不服従です。盲導犬は、今道路を渡っては危険だと瞬時に察知しなければなりません。このとき、訓練士はペアを組んで訓練を行います。1人は訓練現場でわざと車の前に出ます。もう1人は犬の反応を見ます。犬が気づかずに車の前に歩き出すようでは困ります。ここではしっかりとしかります。ぴたりと止まり「今歩き出しては危険です!」を知らせれば、「グッド、グッド」と、思い切りほめてやります。
訓練の最終段階では、各盲導犬協会で盲導犬を希望する盲人とともに、約3週間から1ヶ月の共同宿泊訓練を行います。さらにユーザー(盲導犬を借りることになった人)の自宅周辺で、実際の生活の場に即した訓練を1週間ほど行います。盲導犬訓練士は、ユーザーと犬と一緒に近所の道を歩き、信号のある場所や危険の多い場所を確認したり、よく買い物をする店舗、ポストなどの場所を犬に覚えさせます。 盲人と盲導犬をつなぐのがハーネスです。盲人は、ハーネスのハンドルの上がり下がりで、道路の段差や階段などの歩行上の情報を得ることができます。ハーネスは盲人の体と心を犬とつなぎ、命を守る道具なのです。犬はハーネスをセットされるとこれから仕事だとわかり、顔がきりりと引き締まると言います。
現在では、盲導犬の存在はかなり知れ渡ってきてはいますが、実際の盲導犬を見たことがある人は少ないのではないでしょうか。なぜかと言いますと、盲導犬の数が少ないためです。現在活躍している盲導犬は、全国でわずか800頭程度なのです。滅多にお目に掛かれない盲導犬ですが、街や電車の中で出会ったら是非静かに見守って欲しいです。盲人の「盲導犬といることで不自由はなく、自信を持って外出できる」の言葉からもわかるように、誇らしげに堂々と歩いている様子がわかると思います。そして、盲導犬と歩いている人の横で歩くと、普通の人と全く変わらない速度であることに驚くでしょう。犬の誘導が完璧で、呼吸の合っている様子に感心すると思います。とはいえ、慣れた道を歩いているのかもしれません。困っている様子でしたら「何処に行きたいのですか」、「ここは○○町○○番地です」と声をかけてあげて欲しいです。そして、「この道をまっすぐ行くと歩道橋があります」とか、駅ならば「階段を上って、右が地下鉄の乗り換え口」というように具体的に説明してあげると良いでしょう。また、盲導犬の側に立たない配慮も必要です。犬の気を散らさないように注意しましょう。盲人が危険にさらされることにつながる心配があるためです。
ユーザーと盲導犬は、歩行の時だけではなく、心のパートナーなのです。このような盲導犬が何処に行ってもすんなりと受け入れられるために、盲導犬訓練士や盲導犬協会は、社会に知らせ広める役割も果たさなければいけません。